【インタビュー】教育現場の改革に必要なこととは?|佐藤昌宏先生

「Education」と「Technology」を掛け合わせたEdTechは、テクノロジーを活用した教育のイノベーションであり、従来の概念を覆す「新しい学び」を続々と生み出している。既成概念にとらわれずにどうEdTechを利活用し、未来の教育を創造していくか。EdTech分野の第一人者である、デジタルハリウッド大学大学院 教授の佐藤昌宏氏にお話を伺いました。

【プロフィール】佐藤 昌宏  (さとう まさひろ)先生
デジタルハリウッド大学大学院 教授・学長補佐

一般社団法人教育イノベーション協議会 代表理事

92年NTT入社。99年無料ISPライブドアの立上げに参画。02年デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。日本初の株式会社立大学院の設置メンバーの一人として学校設立を経験。04年E-ラーニングシステム開発事業を行う株式会社グローナビを立上げ代表取締役に就任。09年同大学院事務局長や産学官連携センター長を経て、2017年には一般社団法人教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。現在は専任教授として学生指導を行う。また、内閣官房教育再生実行会議技術革新WG委員、経産省未来の教室とEdTech研究会座長代理など教育改革に関する国の委員や数多くの起業家のアドバイザーなどを務める。著書に「EdTechが変える教育の未来」(インプレス)がある。

ー佐藤先生が普段取り組まれている分野について教えてください。

デジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーション、EdTechという分野です。

技術を教育の中に取り込んで、学びの効率性・効果性を上げていくような仕組みづくりを、主に3つのアプローチから取り組んでいます。

1.トップダウン

公教育の分野においては法律や制度が根幹にあるのですが150年ずっとマイナーチェンジしかされてきていません。

20、30年で技術も大きく進化し、私たちの生活や価値観ですらも変革をする時代において、制度や仕組みの中に技術を上手に取り入れながら、もっと効率化・自動化していこうという取り組みを推進するために、経産省・総務省・文科省・内閣府といったところの委員を務めさせていただいております。

2.ボトムアップ

トップダウンとボトムアップのサンドイッチで変えていかなければという思いから、私自身も大学院で先生として毎週教壇に立ったり、学生たちとゼミをしたり研究をしたりしています。

最近までは学校運営協議会という公立学校の運営に関係するような所の委員なども務め、PTAや親御さんたちとも議論を重ねておりました。

3.教育イノベーター

アイードさんのような形の起業家(アントレプレナー)や、社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)、先生の中でも変えたいという人たち(ティーチャープレナー)、さらには社内の教育システムなどを変えたいと思う社内起業家(イントレプレナー)や、これまでの教育に疑問を持ちイノベーションの必要性を唱えている研究者(アカデミックプレナー)といった、教育を変えていこうと思い活動している人たちを支援しています。

ー上記分野における課題について教えてください。

僕自身も元々起業家でして、最初に始めたのが企業研修を効率化するためのeラーニングのシステムを開発する企業だったんですが、合理的である企業ですら、なかなか教育のデジタル化が受け入れられませんでした。

公教育ともなれば本当に大きな既成概念や、研究や学会など150年培われて来たものがありますし、それを一気に変えるっていうのは本当にとてつもなく難しいものです。

教育というのは人間と人間が向き合って対面で行うべきものだ、という考えが常識なんです。

現代の技術を使うことによって人間の本質的な変革とか、無駄をなくすことに大きく貢献できるんじゃないかという自信はあったものの、やはり国の制度や規制、既成概念というものとの対峙があまりにも壁が高くて、課題という風に感じていました。

ー課題解決に必要なことは何か、考えをお聞かせください。

確固たる自信を持って問題提起をし続けられるかどうかにかかっていると思います。

マジョリティーに流されずに、大きな意見や大きな体制に対して疑問を唱えることから始まったりもします。

どうやってその自信を持ったのかというと、1つは仲間です。

本当に身近な、同じような事を共感する仲間、小さなコミュニティで良いので仲間を作るということが大事です。

2013年、アメリカのサウステキサス州でSXSW(サウスバイサウスウエスト)という教育のイノベーションイベントがあると聞いて、イベントに飛び込んだのですが、自分と同じような考えを持っているイノベーターたちが多数いて、初めて行った街がホームのように感じて、生まれ育った日本がアウェーのような感じになりました。

その感覚をぜひ教育のイノベーターたちにも知ってもらいたいと思い、2015年からベンチャーの人たちを連れて行くようになったのですが、アメリカで出会った仲間たちの影響は大きく、強い自信になりました。

もう一つは、技術の可能性を知るということです。

可能性を知っていたからこそ、こういう世界が来るだろう、なぜこれをやらないんだっていう強い自信に繋がっていました。

現在の叡智であるデジタルテクノロジーというものを、僕はあらゆる人が学ぶべきだと思っています。

技術の可能性をしっかり見据えることができれば、おそらく今の世の中にある不合理や非効率性などが見えてくるので、そこに対して仲間と共に勇気をもって唱えていけばいいと思います。

ーCHIVOXについてはどのように見ておられますか。

非常に大きな変革をもたらす可能性を感じています。

初めはどこまで英語のスピーキングを分析できるのかと少し懐疑的でしたが、実際に試してみて、ここまで出来るんだというのは驚きました。

これまでの日本の学びの環境においては、英語を発話する機会が圧倒的に少なかったような気がします。Skype英会話が出てきた時には大きなイノベーションを感じましたが、CHIVOXは更なる変革を起こすものであると感じています。

人と話すよりも低コストで、気軽に発話ができ、それを客観的に評価してくれるAIスピーキング評価は素晴らしく、もっと身近になるべきだと思っています。

またデータの蓄積もあり進化をし続けているようですので、今後の更なる可能性にも期待しています。

ー佐藤先生が考える理想の姿、教育現場の未来像について教えてください。

もっと技術というものを理解して、友達というか身近なツールのような形で使えるといいなと思います。

技術を上手に自分の武器に道具にすることによって、人間というのは進化しているし、幸せになって行く可能性が高いわけです。

そして学びの多用性。

今子供たちはいろんな環境にいます、趣味や学びの特性など多様です。学習者の多様な学びに応えられるような、ひとりひとりに合った学びの環境を誰1人とり残すことなく提供することが、技術によって実現できると思います。

これまで最適解とされてきた、学校という場所に行って、先生という有識者に教えを受け、そして学ぶという機会はこれからも残るでしょう。

しかし、もっと多様化した、ひとりひとりに合った学びというのが技術によって提供されるはずであり、そういったことを社会が受け入れ、上手に未来の自分たちの学びを構築できる、そんな社会になってもらいたいなと思っています。

ご多忙の中インタビューに答えていただき、誠にありがとうございました! 今後もEdTechを活用した新しい学びに貢献できる様、尽力いたします。

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